測度論 / ルベーグ積分
測度論 [measure theory] / ルベーグ積分 [Lebesgue integral]
測度論とルベーグ積分に関して勉強したことをまとめたマイノート(忘備録)です。
目次 [Contents]
- 概要
- σ-加法族を定義域とする測度
- 有限加法的測度(ジョルダン測度)とそれが誘導する外測度
- カラテオドリ外測度からの測度の構成
- ルベーグ測度の構成
- 測度の拡張と一意性
- 直積測度と2次元ルベーグ測度
- 測度0の集合(零集合)の扱い
- ルベーグ積分の性質
- 参考文献
■ 概要
ここでは、測度論、及び、ルベーグ積分の概要と全体像を、以下のトピックの観点から見ていく。
- 複雑な関数の積分で生じる問題(リーマン積分の問題点)
- ルベーグ積分の視点
- 縦割り分割から横割り分割へ
- 面積の分割に対しての加法性
- 縦割り分割から横割り分割へ
- 測度に基づく積分
- ルベーグ積分を導入することのメリット
- 測度の構成方法
- 1次元ルベーグ測度の構成方法
- 1次元ルベーグ測度の構成方法
◎ 複雑な関数の積分で生じる問題(リーマン積分の問題点)
ここでは、ディリクレ関数のような複雑な関数の積分、より詳細には、区分的に連続ではない関数の積分においては、リーマン積分で取り扱えないようなケースが存在することを見ていき、その観点からリーマン積分の必要性について議論していく。
区分的に連続ではない関数の代表例として、以下のようなディリクレ関数を考える。
このディリクレ関数は、有理数 Q のときは1,無理数のときは0の値をとる関数であり、いたるところで不連続、言い換えると、任意の点で関数のグラフが繋がっていないような関数となる。
この関数を(無理やり)図示すると、以下のような図となる。
その一方で、この特殊な関数とも思えるディリクレ関数は、よく見慣れた cos の関数の近似で表現出来ることが知られている。即ち、
この cos 関数のディリクレ関数の近似の様子を図示すると、以下の図のようになる。
このディリクレ関数は、よく見慣れた cos 関数の近似にも関わらず、いたるところで不連続なので、リーマン積分では取り扱えない。(リーマン積分が扱えるのは、区分的に連続な関数)
一方、結論から述べると、ルベーグ積分は、このような不連続な関数に対しても積分することが可能である。
具体的には、このディリクレ関数のルベーグ積分の値は0になる。
即ち、 となる。
※ このディリクレ関数のルベーグ積分に関しては、後述
◎ ルベーグ積分の視点
☆ 縦割り分割から横割り分割へ
先のディリクレ関数の積分の困難さは、
定義域(有理数 or 無理数)の方向からみての、関数の値の変化の複雑さに起因していた。
言い換えると、横軸からみての関数の値の変化の複雑さに起因していた。
そこで、ディリクレ関数のような不連続な関数の積分を可能にするルベーグ積分では、値域である縦軸の方向からみて、値域の逆写像の分割から関数の積分を考える。
ルベーグ積分では、このように横方向のスライスから関数の積分を考えるわけであるが、
このディリクレ関数でのルベーグ積分の例では、わかりにくいので、
ルベーグ積分を構築するにあたっての例としては、もっと簡単な以下の図のような関数 f(x) で考える。
即ち、ルベーグ積分対象領域を とし、
この領域での関数 を水平方向に、刻み幅 間隔でスライスすると、
(※この刻み幅にしているのは、極限を考えるのに都合が良いため)
上図のようの色付き長方形で示された分割は、
となり、この分割の和の極限を積分として定義出来る。即ち、
☆ 面積の分割に対しての加法性
更に、積分では、様々な形でのある種の単調性がポイントとなる。
(例えば、リーマン積分における分割和の極限など)
このことは、面積の分割に対する加法性(=複雑な形状のものでも、分割すればその加法で面積が求められる性質)に起因している。
ルベーグ積分では、可算無限個までの面積の分割を許可した上で、その面積の分割に対する加法性を考える。その結果として、測度という概念が必要になってくる。
言い換えれば、測度という概念を使って、加重和で表現した面積を定めると、大変うまく機能する。
◎ 測度に基づく積分
詳細は、σ-加法族を定義域とする測度 に記載。以下はその概要説明。
次に、この測度に基づく積分がどうのようなものなのか?の概要を見ていく。
面積を測る操作(=測度)を、「図形のリストに対して、ある実数値を対応させること」 と考える。
即ち、図形のリスト に対し、面積を測る操作(一種の写像)を、( は非負値の実数集合)で表記することにする。
(※この図形のリスト とは、言い換えれば、ユークリッド空間 の部分集合を要素とする集合族のことである。)
その上で、この操作(写像)μ の加法性を定義するのであるが、この加法性を定めるには、予め図形のリストの形状(大きさ)に関する構造が定まっている必要がある。
そのためにまずは、以下のように定義される σ-加法族なるものを導入する。
その上で、σ-加法族であるこの図形のリスト を測る操作(=写像) μ に対しての加法性を導入し、以下のように測度として定義する。
◎ ルベーグ積分を導入することでのメリット
詳細は、σ-加法族を定義域とする測度、ルベーグ積分の性質 に記載。以下はその概要説明。
ルベーグ積分では、リーマン積分より広い関数を扱うことが出来る。
リーマン積分では、最初から定義域を画一的に分割しているが、その故に、あまり融通が利かなかった。
一方、ルベーグ積分では、値域の分割の逆像を考えるので、定義域の分割は区間とは限らず、もっと広く、σ-加法族に属していればよいので、定義域を柔軟に分割することが出来る。
それ故に、ルベーグ積分では、リーマン積分より広い関数を扱うことが出来るというメリットが存在する。積分の基本的な性質の議論で必要とする条件が、リーマン積分よりも弱く、複雑な議論が簡略化出来る。
積分と級数の交換(項別積分)、極限と積分の交換(ルベーグ積分の収束定理)、重積分における積分と積分の交換(フビニの定理)といった積分の基本的な性質の議論において、
リーマン積分では、対象となる関数列の一様収束性や連続性といった比較的強い条件が必要なのに対して、 ルベーグ積分では、このような強い条件がなくとも、これらの積分の基本的な性質が成り立ち、それ故に、リーマン積分での複雑な議論が簡略化出来るメリットが存在する。各種極限操作 lim に対して、高いロバスト性を持つ。
上記のような柔軟性、一般性により、各種極限操作 lim に対して、高いロバスト性を持つ。
◎ 測度の構成方法
詳細は、以下の項目に記載。
① σ-加法族を定義域とする測度
② 有限加法的測度(ジョルダン測度)とそれが誘導する外測度
③ カラテオドリ外測度からの測度の構成
以下はその概要説明。
測度論で扱われる測度の構成には、以下のような方法がある。
① σ-加法族を定義域とする測度の構成
② 有限加法的測度が誘導する外測度からの測度の構成
③ カラテオドリ外測度からの測度の構成
より抽象的、一般的な測度の構成から並び替えると、③→②→①の順。
① σ-加法族を定義域とする測度の構成
- σ加法族を定義域とする測度は、面積の分割に関しての、σ加法性を持つ。
- この σ加法性は、図形(=集合)の面積の分割前と分割後の面積が一致することを意味しており、これは図形の面積が測れる要件になっている。
※ 逆に言えば、図形の面積を測れるためには(=測度であるためには)、集合の面積の分割前と分割後の面積が一致しなくてはならない。
※ 式で書くと、集合 A,B 測度 μ に対して、 - 従って、σ加法族を定義域とする測度は、面積を測れるという意味で、測度になりえる。
② 有限加法的測度が誘導する外測度からの測度の構成
- 半加法族を定義域とする有限加法的測度が誘導する外測度は、劣加法性を持つが、σ-加法性をもたない。
※ 式で書くと、集合 A,B 有限加法的測度 m、m が誘導する外測度 に対して、
- 従って、図形(=集合)の面積の分割前と分割後の面積が一致しないので、そのままでは、測度になりえない。
※ σ加法性を持たないが、劣加法性をもつような、測度より弱い概念になっている。 - 従って、半加法族を定義域とする有限加法的測度が誘導する外測度は、カラテオドリ外測度でもある。
- 従って、カラテオドリ外測度と同様にして、有限加法的測度が誘導する外測度の定義域を半加法族から、(有限加法的測度が誘導する外測度に関しての)可測集合族に制限した関数は、完備測度になる。
③ カラテオドリ外測度からの測度の構成
- カラテオドリ外測度は、有限加法的測度が誘導する外測度を、より抽象化した概念になっている。
- カラテオドリ外測度は、劣加法性をもつが、σ加法性を持たない。
※ 式で書くと、集合 A,B 外測度 γ に対して、 - 従って、図形(=集合)の面積の分割前と分割後の面積が一致しないので、そのままでは、測度になりえない。
※ σ加法性を持たないが、劣加法性をもつような、測度より弱い概念になっている。 - カラテオドリ外測度の定義域は、抽象集合のべき集合(=最も要素数の多いσ加法族)で定義されているが、定義域を(カラテオドリ外測度に関しての)可測集合族に制限した関数は、完備測度になる。
☆ 1次元ルベーグ積分の構成方法
詳細は、ルベーグ測度の構成 に記載。以下はその概要説明。
1次元ルベーグ測度は、以下のような手順で構成出来る。
① 非減少関数が誘導する有限加法性測度
② ルベーグ-スティルチェス外測度
③ 1次元ルベーグ外測度
④ ルベーグ-スティルチェス外測度に関しての可測集合、ルベーグ可測集合
⑤ ルベーグ-スティルチェス測度
⑥ 1次元ルベーグ測度
① 非減少関数が誘導する有限加法性測度
R 上で定義された非減少関数 v:R→R に対して、
定義域を左半開区間 (a,b] 全体と空集合、値域を2つの点 a,b∈R の区間幅 とした
関数 は、有限加法性を持つので、有限加法性測度になる。
② ルベーグ-スティルチェス外測度
開区間 I を定義域とする右連続な非減少関数 v:I→R が誘導する有限加法性測度 に対して、
集合 X のべき集合 を定義域とする関数 を
非減少関数 v が誘導するルベーグ-スティルチェル外測度という。
- この非減少関数が誘導する有限加法的測度から構成した、ルベーグ-スティルチェス外測度は、劣加法性を持つが、σ-加法性をもたない。
- 従って、集合の面積の分割前と分割後の面積が一致しないので、そのままでは、測度になりえない。
③ 1次元ルベーグ外測度
ルベーグ-スティルチェス外測度において、
特に、非減少関数 v ではなく恒等写像 I が誘導するルベーグ-スティルチェル外測度を、1次元ルベーグ外測度 という。
- この非減少関数が誘導する有限加法的測度から構成した、ルベーグ外測度は、劣加法性を持つが、σ-加法性をもたない。
- 従って、集合の面積の分割前と分割後の面積が一致しないので、そのままでは、測度になりえない。
④ ルベーグ-スティルチェス外測度に関しての可測集合、ルベーグ可測集合
ルベーグ-スティルチェス外測度 に対して、σ-加法性の条件
の関係が成り立つとき、ルベーグ-スティルチェス外測度に関しての可測集合という。
同様にして、一次元ルベーグ外測度に対して、σ-加法性の条件
の関係が成り立つとき、ルベーグ可測集合という。
- このσ-加法性の条件は、集合の面積の分割前と分割後の面積が一致することを意味しており、測度の要件になっている。
⑤ ルベーグ-スティルチェス測度
ルベーグ-スティルチェス外測度 は、べき集合を定義域としているが、
ルベーグ-スティルチェス可測集合族 を定義域として制限した測度 は、σ-加法性を持ち、測度になる。
そして、この測度 を、右連続な非減少関数 v:I→R が誘導するルベーグ-スティルチェス測度という。
- このルベーグ-スティルチェス測度に対しては、σ-加法性の条件が成り立ち、集合の面積の分割前と分割後の面積が一致するので、測度になりえる。
- 更に、定義域を可測集合族 からボレル集合族 へ制限した測度 は、完備測度になる。
⑥ 1次元ルベーグ測度
ルベーグ-スティルチェス測度において、
特に、非減少関数 v ではなく恒等写像が誘導するルベーグ-スティルチェル外測度を、1次元ルベーグ測度 λ という。
- このルベーグ測度に対しては、σ-加法性の条件が成り立ち、集合の面積の分割前と分割後の面積が一致するので、測度になりえる。
- 更に、定義域をルベーグ可測集合族 からボレル集合族 へ制限した測度 は、完備測度になる。
■ σ-加法族を定義域とする測度
ここでは、先の概要(測度に基づく積分)で述べたことを、改めて、より一般的な形式で厳密に定義する。
尚、以下の議論では、σ加法族 の対象空間として、d 次元ユークリッド空間 ではなく、より抽象的・一般的な抽象集合 X で定義する。
こうすることで、ルベーグ積分をより、一般的で広範囲な対象のものとして扱える。
そして、この抽象集合 X の最も典型的なものが、ユークリッド空間 であるという位置づけになる。
◎ σ-加法族(完全加法族)
◎ 測度、測度空間
σ-加法族を定義した上で、この σ-加法族 (=図形のリストに対応)を測る操作(=写像) μ に対しての加法性を導入し、以下のように測度として定義する。
以下、
という文言を、この測度空間の言葉を用いて
と記述する。
◎ 可測性(可測関数、可測集合、可測空間)
先に見た積分対象関数の横方向へのスライスから生じる集合(=図形の分割)は、以下の定義で定義される可測関数に対して、σ-加法族に属することになる。
逆に言えば、横方向スライスから生じる集合が、σ-加法族に属するように、可測関数、可測集合なるものを定義する。
◎ 単関数
◎ ルベーグ積分(可測関数の積分)
この σ-加法族、測度、及び、可測関数、単関数を元に、可測関数に対しての積分、即ち、ルベーグ積分が定義できる。
【Memo】ルベーグ積分の柔軟性と σ-加法族
リーマン積分では、最初から定義域を画一的に分割しているが、その故に、あまり融通が利かなかった。
一方、ルベーグ積分では、値域の分割の逆像を考えるので、定義域の分割は区間とは限らず、もっと広く、σ-加法族に属していればよい。
そのため、定義域を柔軟に分割することが出来る。
それ故に、ルベーグ積分では、リーマン積分より広い関数を扱うことが出来るのである。
◎ 可積分、可積分関数
次に、このように定義したルベーグ積分に対しての積分可能性(=可積分、可積分関数)を議論するのであるが、
更に、可積分関数 f に対しての 条件を利用することで、この可積分性(=可積分関数)から積分を再定義することも出来る。
■ 有限加法的測度(ジョルダン測度)とそれが誘導する外測度
先の測度の構成では、σ-加法族をもとに測度、及びルベーグ積分を構成してきたが、ここでは、より一般的な測度の構成を見ていく。(具体的には、σ-加法族ではなく、より制限の弱いより抽象的な半加法族での測度の構成)
◎ 面積の過大評価と過小評価(内面積、外面積)
そのためにまず、図形の面積を測るということがどのようなことなのかを再考する。
今、上図のように、平面上の図形にタイル状の網目をかけて、図形の内部からはみ出さない部分を数えると、図形の面積を過小評価していることになるが、この過小評価の上限を内面積という。
一方、図形に少しでも重なる部分(=図形を覆う部分)を数えると、図形の面積を過大評価していることになるが、この過大評価の下限を外面積という。
そして、この内面積と外面積が一致するとき、この図形の面積が確定し、その共通の値が面積であると定義出来る。
このことは、言い換えると、測度が、以下で定義するような有限加法性をもつことを意味している。
◎ 有限加法的測度(ジョルダン測度)
◎ 集合の分割
次に、図形の面積の分割を考える前段階として、以下のような集合の分割の概念を導入する。
◎ 半加法族
より抽象的な定義での測度は、以下で定義する半加法族 に対して、先に定義した有限加法的測度 を構成したもの(=半加法族上に定義された有限加法的測度)となる。
そして、このような測度を と表記することにする。
- (証明略)
◎ 有限加法的測度(ジョルダン測度)が誘導する外測度
先の外面積の例では、図形を覆うように配置した有限個の長方形で、図形の面積を評価(=図形の面積の過大評価の下限)したが、これを有限個→可算無限個の長方形で覆うようした上で、面積を評価するように拡張したのが、以下で定義する外測度である。
【Memo】
カラテオドリ外測度や有限加法的測度が誘導する外測度の定義域が、べき集合なのは、べき集合が最も要素数の多い σ-加法族であることと、測度が σ加法族を定義域とすることが理由
☆ 劣加法性と σ-加法性
☆ 有限加法的測度が誘導する外測度の性質
- (証明略)
■ カラテオドリ外測度からの測度の構成
先に見たように、σ-加法族を元にした測度の構成を、より一般化、抽象化した測度の構成方法として、半加法族を元にした有限加法的測度(=ジョルダン測度)から誘導される外測度から再構築してきた。
一方、この構築方法とは別の方法として、カラテオドリの外測度からの測度の構成方法も考えられる。
◎ カラテオドリ外測度
カラテオドリ外測度は、先の有限加法的測度から誘導される外測度を、更に抽象化したものになっている。
◎ (カラテオドリ外測度に関しての)可測集合
- 【参考】
- (証明略)図より自明に成り立つ。
☆ (有限加法的測度が誘導する外測度に関しての)可測集合
半加法族 を定義域とする有限加法的測度 が誘導する外測度 は、先に見たように、カラテオドリの外測度でもあるので、カラテオドリの外測度のときと同様にして、可測集合なるものが導入できる。
☆ (カラテオドリ外測度に関しての)可測集合族の σ-加法性
- 【参考】
- (証明略)
◎ (カラテオドリ外測度に関しての)零集合
☆ (有限加法的測度が誘導する外測度に関しての)零集合
半加法族 を定義域とする有限加法的測度 が誘導する外測度 は、先に見たように、カラテオドリの外測度でもあるので、カラテオドリの外測度のときと同様にして、零集合なるものが導入できる。
◎ 完備測度、完備測度空間
◎ (カラテオドリ外測度に関しての)完備測度、完備測度空間
- (証明略)
☆ (有限加法的測度が誘導する外測度に関しての)完備測度
半加法族 を定義域とする有限加法的測度 が誘導する外測度 は、先に見たように、カラテオドリの外測度でもあるので、カラテオドリの外測度のときと同様にして、完備測度なるものが導入できる。
■ ルベーグ測度の構成
ここでは、先のカラテオドリ外測度、有限加法的測度が誘導する外測度での議論を、ルベーグ外測度に適用して、ルベーグ測度の存在を示すことを考える。
◎ 非減少関数が誘導する有限加法的測度
先に見たの有限加法的測度の例として、以下のようなものが存在する。
◎ ルベーグ-スティルチェス外測度、1次元ルベーグ外測度
非減少関数が誘導する有限加法的測度に対して、1次元ルベーグ外測度なるものが構築できる。
◎ ルベーグ可測集合(ルベーグ外測度に関しての可測集合)
ルベーグ-スティルチェル外測度、即ち、非減少関数 v が誘導する有限加法的測度 に対する外測度 は、カラテオドリの外測度でもあるので、カラテオドリの外測度のときと同様にして、可測集合なるものが導入できる。
◎ ルベーグ-スティルチェス測度、1次元ルベーグ測度
◎ ルベーグ積分(より一般化した定義)
このルベーグ可測集合の考えを用いれば、先の σ-加法族に基づくルベーグ積分の定義を、より一般化したルベーグ積分の定義として構築できる。
- 【参考】
■ 測度の拡張と一意性
◎ σ-有限な有限加法的測度
- (証明略)
- (証明略)
◎ 集合族から生成される σ-加法族
- (証明)
m-可測集合族 は、その定義(=σ-加法性)より、σ-加法族である。
従って、一方、半加法族 は、σ-加法族より弱い条件になっているので、 の関係が成り立つ。
又、半加法族 から生成される σ-加法族 は、半加法族 を含む ”最小の” σ-加法族なので、
の関係より、 の関係が成り立つ。
◎ 測度の拡張とホップの拡張定理
◎ 測度の拡張の一意性
抽象集合 X 上の σ-加法族 が、 の関係を満たし、
σ-加法族 を定義域とする抽象集合 X 上の2つの測度 が、
半加法族 を定義域とする抽象集合 X 上の有限加法的測度 を拡張する場合において、
どのような場合に の関係、即ち、測度の一意性が成り立つであろうか?ということを考える。
この一意性の条件は、以下で見るように、有限加法的測度 とσ-加法族 の両方が関わってくる。
(証明)
先の補題(半加法族から生成されるσ-加法族と可測集合族)より、
の関係が成り立つ。
一方、先の補題(σ-有限な有限加法的測度と測度の拡張)より、
の関係が成り立つ。
従って、任意の の部分を に置き換えると、
① 測度 は の測度の拡張なので、
② 測度 は の測度の拡張なので、従って、この2つの関係式より、
となり、 の関係が成り立つ。
◎ 測度空間の完備化
測度空間が、完備測度でない場合において、測度が0となる零集合を、積分の計算結果に影響しないものとしてうまく除外できないために、積分の操作が厄介なものとなる。
このような場合は、以下に定義する完備化という操作によって、測度空間を予め完備にすることになる。
◎ ボレル集合族、ボレル測度
ここでは、ルベーグ測度に関しての測度の一意性と完備化の議論を行うための前段階として、以下で定義されるボレル集合族なるものを定義する。
このボレル集合族を定義域とする測度は、ボレル測度と呼ばれ、一意に定まる測度となる。
◎ ルベーグ測度の一意性と完備化(ボレル集合族上のルベーグ測度)
先に導入したボレル集合族を用いて、ルベーグ測度に対して、定義域を可測集合族からボレル集合族に制限した、ボレル集合族上のルベーグ測度を考える。
そして、このボレル集合族上のルベーグ測度では、以下の定理で示すように、測度の一意性と完備化の議論を行うことが出来る。
- (証明略)
■ 直積測度と2次元ルベーグ測度
ここまでの測度の議論では、測度の定義域は抽象的な集合族で考えてきたが、測度 μ:B→R 自体は1次元のみで考えていた。
しかしながら例えば、1次元の線分上の測度から、2次元の長方形上の測度を構築したい場合、より一般的には、d 次元の測度を構築したい場合には、1次元の測度のみの議論では不十分である。
このような場合は、測度の直積なるものを導入して、それを元に、より高次元の測度を構築することになる。
ここでは、測度の直積に関連して、まず、2次元ルベーグ測度が導入できることを見ていき、その一般化として、測度の直積と一意性に関して議論していく。
◎ 集合族の直積と半加法族
まず、集合族の直積が、半加法族をなすことを見ていく。
◎ 直積集合からの射影と有限加法的測度
次に、集合族の直積 を定義域とする関数 が、有限加法的測度となることを見ていく。
後に示すように、この有限加法的測度 が誘導する測度の1種が、2次元ルベーグ測度となる。
- (証明略)
- (証明)(a) の証明のみ記載
- (証明)(a) の証明のみ記載
- (a) の証明
関数 は、半加法族 から生成された σ-加法族を定義域としており、 又、測度の条件(非負値、σ加法性)を満たすので、測度である。
一方、有限加法的測度 は、半加法族 を定義域としているが、
の関係より、これを拡張した測度でもある。
- (a) の証明
◎ 2次元ルベーグ測度
先の議論(集合族の直積が半加法族で有限加法的測度になる関係)において、
有限加法的測度 m として、(ルベーグ可測集合族上の)1次元ルベーグ測度 を採用すると、 に対応するものとして、 が考えられるが、 が有限加法的測度であることより、この は2次元ルベーグ測度を誘導するものとして考えられる。
◎ 2次元ボレル集合族
1次元ルベーグ測度のときと同様にして、ここでは、2次元ルベーグ測度に関しての測度の一意性と完備化の議論を行うための前段階として、以下で定義される2次元ボレル集合族なるものを定義する。
この2次元ボレル集合族を定義域とする測度は、2次元ボレル測度と呼ばれ、一意に定まる測度となる。
◎ 2次元ルベーグ測度の一意性と完備化
1次元ルベーグ測度のときと同様にして、先に導入した2次元ボレル集合族を用いて、2次元ルベーグ測度に対して、定義域を可測集合族から2次元ボレル集合族に制限した、2次元ボレル集合族上の2次元ルベーグ測度なるものを考える。
そして、この2次元ボレル集合族上の2次元ルベーグ測度では、以下の定理で示すように、測度の一意性と完備化の議論を行うことが出来る。
- (証明略)1次元ルベーグ測度のときと同様
◎ 直積測度
先の2次元ルベーグ測度に関しての議論を、測度の直積の観点から一般化することで、以下のような、直積測度を導入出来る。
このように定義した直積測度 は、その元になる測度
がσ-有限な測度である場合においては、一意に存在する。
- (証明)
この定理は、先の定理(集合族の直積から生成された σ-加法族上への制限と完備性)を、
有限加法的測度 、生成されたσ加法族 から
直積測度 、直積σ加法族 に置き換えた定理になっているので、成り立つ。
■ 測度0の集合(零集合)の扱い
測度0の集合、即ち、零集合は、
主に以下のような観点から、測度論において重要な概念となっている。
- 測度0の集合(=零集合)の有無が、積分の計算結果に影響しない。
- これにより、先のディリクレ関数(積分の値が0)のようないたるところで不連続な関数もルベーグ積分出来る。
- 又、リーマン積分可能な必要十分条件が「不連続点が測度0の集合(=零集合)であること」 になる。
- 測度0の集合(=零集合)を、積分の計算結果には影響しない余計な部分として削ぎ落とすために、予め積分の土台となる測度空間に備わっている性質という意味で、完備測度の要件になってる。
- この測度0の集合(=零集合)の概念から派生した、ほとんどいたるところの概念を用いて、リーマン積分の定義や、各種ルベーグ積分の性質(単調収束定理、ルベーグ収束定理、フビニの定理)を記述することが出来る。
◎ ほとんどいたるところ [almost eyerywhere]
この零集合は、その定義より、測度0の集合となるが、測度0の集合上での違いは、積分に影響せず無視できるという事実がある。
そこで、「積分に影響しない例外(今の場合、測度0の零集合)に関しては、無視する。」
ということを表す概念を導入することを考える。
この概念こそが、以下のほとんどいたるところの概念になる。
以下、例を用いて、このほとんどいたるところの概念が、「積分上無視できる部分を除いて」の意味になっていることを示す。
- (例)積分上無視できる部分が存在する積分
という関数を 0~1 の範囲で積分 することを考える。
この関数は x=0.5 以外では、通常の f(x)=x と変わらない関数であり、積分時の分割図形と共に表示すると、以下の図のようになる。
上図から分かるように、不連続点が寄与する分割長方形の面積は、リーマン積分時の幅を無限に細く取る操作で、無限に小さく出来るので、無視できる。
(※このことは、リーマン積分においては、非連続点が測度0で零集合であることを意味している。)
即ち、この関数の積分は、 となるのであるが、この f(x) の、積分する上では、x と変わらないという事実を、
「ほとんどいたるところ f(x)=x」或いは「f(x)=x a.e」のように、ほとんどいたるところの概念を用いて表現する。
【Memo】 測度論における、ほとんどいたるところ [almost everywhere]
零集合はその定義より、測度0の集合となるが、測度0の集合上での違いは、積分に影響せず無視できるという事実がある。(例えば、リーマン積分では、非連続点は測度0で零集合になり、積分上無視出来る。)
そこで、「積分に影響しない例外(今の場合、測度0の零集合)に関しては、無視して取り除く」 ということを表す概念を導入することを考える。この概念こそが、ほとんどいたるところの概念になる。
このほとんどいたるところの概念を用いれば、例えば、リーマン積分を
「ほとんどいたるところで連続⇔リーマン積分可能」と表現できる。
(※この必要十分条件は、リーマン積分では、非連続点は測度0で零集合になり、積分上無視出来るという性質に起因する。)
- 【参考】
■ ルベーグ積分の性質
積分の基本的な性質に関して、リーマン積分とルベーグ積分とで比較すると、以下の表のような対応関係となる。
これらの性質、定理は、いずれも同じ性質を示しているが、これらが成り立つ前提となる条件は異なる。
即ち、各性質、定理に関して、以下のような違いが存在する。
「積分と級数の交換(項別積分)」
リーマン積分における 「積分と級数の交換(項別積分)」 では、積分対象の関数の点列 に対しての関数の点列 が、一様収束しなければならない。
一方、これに対応するルベーグ積分における「積分と級数の交換(項別積分)」では、このような強い制約は必要ではなく、積分対象関数の点列 が可測関数でありさえすれば良い。「極限と積分の交換」 と 「ルベーグの収束定理」
リーマン積分における 「極限と積分の交換」 では、積分対象の関数の点列 が、ある共通の定数 K に対して、連続関数で一様収束 しなければならない。
一方、これに対応するルベーグ積分における「ルベーグの収束定理」では、このような強い制約は必要ではなく、積分対象関数の点列 が可積分で、各点収束 さえすれば良い。「重積分の積分の交換(累次積分公式)」 と 「フビニの定理」
リーマン積分における 「重積分の積分の交換(累次積分公式)」 では、積分対象の関数 f が、連続関数である必要がある。
一方、これに対応するルベーグ積分における「フビニの定理」では、このような強い制約は必要ではなく、積分対象の関数 f が、可測関数ありさえすれば良い。
- 【参考】
◎ 各点収束と概収束
積分の基本的な性質である極限と積分の交換に対応した各種収束定理(単調収束定理、ファトゥの補題、ルベーグの収束定理)は、関数列の極限と積分の交換可能性を示した定理であり、関数列の収束に関する定理となっている。
そこで、関数列の収束を扱う前段階として、以下のような各点収束、概収束の概念を導入する。
尚、後述の各種収束定理(単調収束定理、ファトゥの補題、ルベーグの収束定理)は、この各点収束の意味でも概収束の意味でも成り立つ。
◎ 積分と級数の交換可能性(項別積分可能性)
まず、ルベーグの基本的な性質として、積分と級数の交換可能性、即ち、項別積分可能性について示す。
この性質は、後述の単調収束定理と同じ意味合いを持ち、又、実際のルベーグ積分の具体的な計算でも、重宝する性質となる。
◎ エゴロフの定理
- (証明略)図より自明
このエゴロフの定理を用いれば、
積分の基本性質である、「(単関数における)極限と積分の順序の交換可能性」を示すことが出来る。
- (証明略)
◎ ファトゥの補題
単調収束定理やルベーグ収束定理を示すための前段階として、以下のファトゥの補題を示す。
このファトゥの補題は、先の単関数に対する極限と積分の交換可能性の性質を、可測関数、即ちルベーグ積分に拡張したものになっている。
- (証明略)
◎ 単調収束定理
ファトゥの補題を用いれば、以下の単調収束定理を示すことが出来る。
◎ ルベーグ収束定理
ファトゥの補題から導かれるルベーグ-ファトゥの補題(=ファトゥの不等式)を用いれば、
以下のルベーグの収束定理も示すことが出来る。
- (証明略)
◎ 各種収束定理のほとんどいたるところを用いた表現
ほとんどいたるところで定義された関数や概収束の概念を用いると、全ての点で収束するとは言えないような関数列に対しても、先の各点収束の意味での各種収束定理(単調収束定理、ルベーグの収束定理)を適用できるようになる。
- (証明略)先の各点収束での単調収束定理と同様
- (証明略)先の各点収束でのファトゥの補題と同様
- (証明略)先の各点収束でのルベーグの収束定理定理と同様
◎ フビニの定理
先に議論した測度の直積に対して、その断面(切り口)からルベーグ積分の性質(多重積分の積分の交換可能性)を述べたものがフビニの定理となる。
以下、そのことを見ていく。
☆ 直積集合の断面(切り口)
まず、直積集合に対する断面(切り口)なる概念を導入する。
ここでの主目的であるフビニの定理は、ルベーグ積分、即ち、可測関数の積分での性質なので、この断面の可側性(=断面が可測集合、断面上の可測関数)を導入する。
☆ 非負可測関数に対してのフビニの定理(フビニ-トネリの定理)
この可測関数である切り口関数 として、ルベーグ積分を採用()したときに、重積分の交換可能性の性質を述べたものが、以下の(非負可測関数に対しての)フビニの定理となる。
- (証明)
関数の点列 に対して、以下のような関数を考えると、この関数は可測関数である。(途中計算略)
ここで、この関数の点列 に単調収束定理
を適用すると、
の関係が成り立つことが分かる。
一方、測度 に対しての積分に、単調収束定理を適用すると、以下のような関係式が得られる。(途中計算略)
先の関係式と合わせると、
ここで、この式の右辺の累次積分は、直積測度による積分 に等しい(途中計算略)ので、
☆ 完備化に対してのフビニの定理
先の非負可測関数に対してのフビニの定理は、2次元ルベーグ測度に伴うルベーグ積分に対しては、適用出来ないという問題が存在する。
これは、直積測度から得られるルベーグ可測集合族を定義域とする2次元ルベーグ測度が、必ずしも完備測度ではなく、2次元ボレル集合族を定義域とする2次元ルベーグ測度で完備化されることに起因する問題である。
このような場合においては、以下で議論するような ”完備化に対しての” のフビニの定理が必要となる。
◎ 単関数の積分とその性質
ルベーグ積分に関するその他の一般的な性質(線形性など)を、先のルベーグ積分の定義から直接導出するのは、困難である。
そこでまずは、単関数の場合に限定し、更に、積分の性質を確かめるための補助的な量を別途定義した上で、先のルベーグ積分の定義と関連付けて議論することにする。
ルベーグ積分の性質(線形性など)との関連付けて議論するために、このように定義した補助的な量に対して、いくつかの性質を見てみる。
- (証明)
合成関数 h の値域 range(h) に関して、以下のような関係が成り立つ。
更に、関数 ϕ の値域の有限値を定める定数 に対して、以下のような関係が成り立つ。
この式は、例えば、 のときは、
となり、下図のように、2つの単関数 f,g の組み合わせによって、 領域の分割が生じる様子を示している。
ここで、
「値域 range(h) が、可算集合ならば、関数 h の可測性は、y∈range(h) に対して、 が成り立つことと同値である」
という関係(証明略)より、
上式の右辺(=上図に示した分割領域の和集合)が、有限集合であり、σ-加法族 に属することは、 合成関数 h が、B-可測関数であることを意味している。
従って、合成関数 h は、単関数である。
この単関数の合成関数の性質を、
先に定義したルベーグ積分の性質を確かめるための補助的な量
に適用すると、以下のような定理が導かれる。
- (証明略)
この定理から、ここでの主目的であった、
ルベーグ積分の性質を確かめるための補助的な量 に対する、積分演算で一般的に成り立つ性質(線形性など)の導出と、
この補助的な量 が、ルベーグ積分の定義に一致する、即ち、 の関係を示すことが出来る。
- (証明略)
◎ ルベーグ積分のその他の基本的性質
以下、ルベーグ積分に関しての、その他の基本的な性質を見ていく。
まずは、測度 μ の有限加法性に起因する性質を見ていく。
- (証明略)測度 μ の有限加法性を用いて証明出来る。
次に、σ-加法性に起因する性質を見ていく。
- (証明略)測度 μ の σ-加法性を用いて証明出来る。
■ 参考文献
- 作者: 岩田耕一郎
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 2015/07/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
測度・確率・ルベーグ積分 応用への最短コース (KS理工学専門書)
- 作者: 原啓介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/09/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 森真
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 2004/12/01
- メディア: 単行本
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
◎ 参考文献の簡単なレビュー
「ルベーグ積分 理論と計算手法」の本は、一般的な厳密な記述での数学書よりかは親切な説明でわかりやすいと感じます。
その一方で、定理や補題、系と証明が乱立してて、今一体何を目的にどこに向かっているのか全体像がつかめす、迷子になってしまうことが多々ありました。単に自分が数学書に慣れてないせいかもしれませんが、、、
一方、「測度・確率・ルベーグ積分 応用への最短コース」の本のほうは、機械学習の数学的な基礎となっている測度論の観点からの確率論の理解を1つの目的としており、その理解のために、最小限必要な定義、定理のみの内容に絞られていてので、都度全体像がつかめて迷子になりにくいかったです。
とはいえ、これ1冊では、測度論全体を俯瞰できるようなボリュームの説明になっていないし、又、例も少なく、定義、定理、証明の厳密性にも欠ける印象を受けました。
結果としては、(毎度のことながら)2冊の両方使っての勉強が良いと感じました。